オークス 2019【名馬列伝】勝利の女神さえ、脇役に追いやった大女優。

世の中には時に、その容姿で身にまとう空気を手なづけて、自らセリフを書き換えてしまう脚本家泣かせな大女優が忽然と現れたりする。競馬の世界でもそれは同じだ。

彼女の馬名の由来は、シェークスピアの代表作である「十二夜」で身分を偽り、叶わぬ恋に身を焦がしたヒロインが劇中で使用したもの。

ところが、現実の大女優はどうだろう？

その貫禄、生き様は、原作のヒロインとは似て似につかない女帝ぶりだった。彼女の前には恋も運命も勝利の女神さえ、全て脇役に追いやられた。

「一顧傾城」とは良く言ったものだ。彼女がちらりと流し目を送るだけで、一つのレースを支配する呪縛も夢中になって我を忘れ、展開など根底からひっくり返った。

その強さと美しさで、運命の台本など安々と書き換えた絶世の美女。それが日米のオークスを虜にし、二つの国の女王となった、名牝「シーザリオ」である。

この舞台だけは飾りなどいらない。個性すらも邪魔だ。必要なのは圧倒的な美しさだけ。強く美しい者だけが勝てる舞台。それがオークスである。

　日本だけでは抱えきれない美しさ。

　海を渡ったその美に慄け。

　大女優は今日も、自らセリフを書き換える。

（作：真田 幸太郎）