安田記念 2019【名馬列伝】これが俺の生きる道。

一人の主人公の「生きた道」が伝説へと生まれ変わった時、人はその輝かしい栄光の瞬間にしか目が行かないもの。人間とはどれだけ浅はかな生き物だろうか。その栄光が誕生するまでの道のりの方が、遥かにドラマチックであると言うのに。

彼の道もまた、はじめから誰もが羨むようなバラ色の道では決してなかった。発熱、疲労困憊、左前脚の落鉄。後の世界ランキング１位の座に君臨する彼ですら、１年８ヶ月間もの間、勝てない日々が続いていた。

しかし、時は来た。彼は悔しさを忘れてはいなかった。全ての怒りも執念を爆発させる時が来たのだ。そして同時に、彼の歩んできた道が「伝説」へと変わる瞬間を私は見た。

タイムも従来の記録を２秒以上も更新。４馬身、６馬身差の圧勝劇。そうして手に入れた世界ランキング１位と言う栄誉。その伝説を携えて迎えた凱旋レース。薄曇りの空。泥濘んだ馬場。誰もが「終わった」と思ったその時、どろんこの道を一本の矢が、執念の火を帯びながら飛んできた。

勝っても負けても、
責任を独り占めできる者。

それは、その道に全てを賭けた者でなければ得られない最高の特権。勝ち気な彼は、まるでその重圧を楽しむかの様に、額の流星と心のコンパスが指差す、眼の前の道を、ただひたすらに魂の咆哮と共に突き進んだのだ。

　曇天に笑え。
これが俺の生きる道。

（作：真田 幸太郎）